オンライン診療は、2018年の保険適用開始以降、制度改正を重ねながら普及が進んでいます。2026年度診療報酬改定では、オンライン診療に関連する複数の新加算が設定され、電子処方箋や訪問看護との連携評価も強化されました。本記事では、個人クリニック(スタッフ1〜5名規模)向けに、オンライン診療の基礎知識、2026年改定での変化、システム選びのポイントを整理します。
この記事のポイント
オンライン診療は「D to P」「D to P with N」「D to P with D」の3形態に整理されています。2026年度改定では、遠隔電子処方箋活用加算(10点)、訪問看護遠隔診療補助料(265点)など複数の新加算が設定されました。個人クリニックがオンライン診療を導入する場合、自院の診療科・患者層・連携体制に応じたシステム選定が重要と考えられます。
オンライン診療とは(定義と全体像)
オンライン診療は、情報通信機器を用いて医師が患者を診察する診療形態です。2018年度の診療報酬改定で保険適用が始まり、2022年度改定で大幅な要件緩和、2024年度改定で形態別の評価強化、2026年度改定でさらなる拡充という経緯を経て、現在に至っています。
厚生労働省による定義
厚生労働省の指針では、オンライン診療は「遠隔医療のうち、医師-患者間において、情報通信機器を通して、患者の診察および診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為を、リアルタイムにより行う行為」と定義されています。
テキストチャットのみ、または単なる健康相談はオンライン診療には該当しません。リアルタイムの映像・音声通信による診察が要件となります。
オンライン診療が注目される背景
オンライン診療の普及が進む背景には、以下の要因があります。
- 新型コロナウイルス感染症流行を契機とした需要増加
- 医師の働き方改革推進によるICT活用の必要性
- 高齢化・過疎地域の医療アクセス確保
- 慢性疾患の長期管理における通院負担軽減
- 自由診療領域(美容皮膚科、AGA、ED治療等)での利便性向上
2026年4月時点では、保険診療・自由診療の両方でオンライン診療の活用が進んでいます。
オンライン診療の形態分類
オンライン診療は、医師と患者のみで行う基本形から、看護師や他医師と連携する形態まで、複数の形態があります。2024年度・2026年度改定では、これらの形態別に評価が整理されました。
| 形態 | 略称 | 特徴 |
|---|---|---|
| 医師-患者1対1 | D to P | 最も基本的な形態。患者は自宅等からアクセス |
| 看護師同席型 | D to P with N | 医師は遠隔、患者のそばに訪問看護師が同席 |
| 医師連携型 | D to P with D | 対面診療中の医師が、他院の専門医とICTで連携 |
個人クリニックが導入する基本形態は「D to P」ですが、在宅医療や訪問看護と連携する場合は「D to P with N」も活用領域となります。
2026年度診療報酬改定でのオンライン診療関連の新設加算
2026年度改定では、オンライン診療の活用をさらに推進するため、複数の加算が新設・再編されました。
遠隔電子処方箋活用加算(新設・10点)
オンライン診療時に電子処方箋を発行し、電子処方箋管理サービスを通じて重複投薬チェック等の情報を活用して診療を行った場合に算定できる加算です。
算定要件(概要)
- 情報通信機器を用いた医学管理等を算定する患者が対象
- 電子処方箋システムで薬剤情報を確認し、重複投薬等チェックを実施
- 調剤を希望する保険薬局と連携して電子処方箋を発行
- 月1回に限り算定可能
オンライン診療と電子処方箋の両方を導入しているクリニックでは、追加の加算取得機会となります。電子処方箋の導入状況については、電子的診療情報連携体制整備加算とは?2026年6月施行の新加算を完全解説の記事でも解説しています。
訪問看護遠隔診療補助料(新設・265点)
医師がオンライン診療を行う際、訪問看護師が患者の自宅等に同行し、バイタル測定などの補助をリアルタイムで行う「D to P with N」形態を評価する加算です。
算定要件(概要)
- 訪問看護ステーションの看護師が、主治医の指示を受け、患家を訪問
- 緊急に診療が必要と判断された利用者が対象
- オンライン診療時の補助(バイタル測定、視診補助等)を実施
- 月1回に限り算定可能
この加算は訪問看護ステーション側で算定されるため、在宅医療を提供するクリニックにとっては、連携する訪問看護ステーションとの協働機会が増える仕組みとなります。
看護師等遠隔診療の検査・処置・注射実施料(新設)
オンライン診療中に、患家を訪問している看護師等が医師の指示のもとで検査・処置・注射を実施した場合の評価として、以下が新設されました。
- 看護師等遠隔診療検査実施料:1種類100点、2種類以上150点/日
- 看護師等遠隔診療処置実施料:1種類100点、2種類以上150点/日
- 看護師等遠隔診療注射実施料:100点/日
これにより、医師が物理的に訪問しなくても、看護師を介して検査・処置・注射を実施した分が評価される仕組みとなりました。在宅医療の効率化への貢献が期待される制度です。
遠隔連携診療料(再編・一律900点)
対面診療を行っている医師が、ビデオ通話可能な情報通信機器(ICT)を用いて、他の医療機関の専門医と連携して診療を行う場合の加算です。「D to P with D」形態の評価です。
2026年度改定では、従来の「目的別(診断・その他)」の区分から、「外来診療・訪問診療・入院診療」の3区分に再編され、点数が一律900点に整理されました。いずれも3月に1回算定可能です。
オンライン診療の実施に必要な体制・システム
オンライン診療を個人クリニックで実施するには、いくつかの体制と設備が必要です。
必要な基本要件
オンライン診療を保険診療として実施するための基本要件は以下の通りです。
- 厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の遵守
- 医師が指針に定める研修の受講(e-ラーニング等で受講可)
- 情報通信機器を用いた診療の体制整備
- 施設基準の届出(初診料・再診料の情報通信機器を用いた診療を算定する場合)
- 対面診療が可能な体制(緊急時対応含む)
施設基準の届出先は管轄の地方厚生局となります。届出の詳細な手順は、電子的診療情報連携体制整備加算の届出方法と必要書類【2026年5月期限】の記事で解説している手順と共通する部分が多いです。
システム・設備の要件
オンライン診療のシステムには、以下の機能が求められます。
- リアルタイムの映像・音声通信機能
- 本人確認機能
- 予約・問診機能
- 決済機能(自由診療の場合)
- 電子カルテとの連携機能
- セキュリティ対策(暗号化通信、なりすまし防止等)
厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」および「オンライン診療の適切な実施に関する指針」への準拠が必要です。
必要な端末・設備
クリニック側では、以下の機器・設備が必要です。
- カメラ・マイク付きのパソコンまたはタブレット
- 安定したインターネット回線
- 診察の様子が外部に漏れない個室環境
- カルテ参照用の端末(オンライン診療端末と兼用可)
- 決済機能(自由診療の場合はクレジットカード決済等)
患者側は、スマートフォンまたはパソコンとインターネット環境があれば参加可能です。アプリのインストールが必要な製品が多く見られます。
主要オンライン診療システムの傾向(2026年4月時点)
日本国内でオンライン診療システムを提供する主要な製品には、以下のような傾向があります。具体的な推奨は行いませんが、選定時の参考情報として整理します。
主要製品のタイプ別整理
| タイプ | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 専用システム型 | オンライン診療に特化した機能 | 本格運用、多機能を求めるクリニック |
| 電子カルテ連動型 | 既存電子カルテと一体化 | 電子カルテベンダーで統一したい |
| LINE/メッセンジャー連携型 | LINE等で診療予約・実施 | 患者層がLINE中心のクリニック |
| 汎用ビデオ会議型 | Zoom等の一般ビデオ会議活用 | 導入コストを最小限にしたい |
医療情報の安全管理ガイドライン準拠を考慮すると、**医療機関向けに設計された専用システム**が推奨されます。汎用ビデオ会議ツールは、セキュリティ要件を満たしているか慎重な確認が必要です。
費用相場の目安
| 費用項目 | 金額目安 |
|---|---|
| 初期費用 | 無料〜10万円程度 |
| 月額費用 | 1〜3万円程度 |
| 従量課金(診療1件あたり) | 数百円〜(製品による) |
| 決済手数料(自由診療時) | 売上の3〜5%程度 |
月額固定料金型と従量課金型の2種類のモデルが一般的です。オンライン診療の実施件数が多い場合は固定料金型、少ない場合は従量課金型が経済的な傾向があります。
電子カルテとの連携性
オンライン診療の運用効率を高めるには、電子カルテとの連携が重要です。患者情報、診療記録、処方箋情報が自動連携されれば、転記作業が不要となり、業務効率が大幅に向上します。
電子カルテ選びとオンライン診療システム選びは、連携性の観点から一体で検討することが推奨されます。詳細はクラウド電子カルテとオンプレミス型の違い|個人クリニック向け徹底比較の記事をご参照ください。
個人クリニックのオンライン診療導入の判断基準
オンライン診療を導入すべきかどうかは、自院の状況により異なります。判断の基準を整理します。
オンライン診療導入が向いているクリニック
オンライン診療導入を検討すべきケース
- 慢性疾患患者の定期診察が多い(糖尿病、高血圧等)
- 通院困難な患者(高齢者、障害者、遠方居住者)が多い
- 働く世代の患者が多く、来院時間の確保が難しい
- 在宅医療を提供している
- 自由診療(美容皮膚科、AGA、ED治療等)を行っている
- 感染症リスクを下げたい診療科
- 競合との差別化を図りたい新規開業
オンライン診療導入の慎重な検討が必要なケース
慎重な検討が必要なケース
- 身体所見が診療の中心となる診療科(整形外科の手術後診察など)
- 高齢患者が多く、スマホ操作に不慣れ
- 対面診療の待ち時間が短く、オンライン化の必要性が低い
- 医師1人体制でオンライン診療の時間確保が困難
- 投資コストの回収見込みが立たない規模
導入前のシミュレーション
導入判断の前に、以下のシミュレーションを行うことが推奨されます。
- 対象となる患者層の規模試算(月間何人がオンライン診療を希望するか)
- オンライン診療の実施時間の確保(診療時間内のどの枠で行うか)
- 投資コストと回収期間の試算
- スタッフの運用体制(予約管理、技術サポート等)
- 既存の対面診療とのバランス調整
シミュレーションにより、自院にとっての導入効果が明確になります。
オンライン診療の運用上の注意点
オンライン診療を安定運用するために、いくつかの注意点を整理します。
注意点1:対面診療との使い分け
オンライン診療はすべての診療を代替するものではありません。初診時の重症度判断、身体所見が必要な診察、検査が必要な場合などは、対面診療が優先されます。
厚生労働省の指針では、初診のオンライン診療実施について、一定の条件(既往歴の把握、かかりつけ医としての関係性等)が定められています。指針の遵守が必要です。
注意点2:個人情報保護とセキュリティ
オンライン診療では、医療情報と個人情報の両方を取り扱うため、セキュリティ対策が重要です。
- 通信の暗号化(SSL/TLS)
- アクセス権限の適切な管理
- パスワードの定期変更
- 診療室の視聴・録音対策
- ベンダーとのデータ取扱契約
注意点3:患者側の環境確認
オンライン診療開始前に、患者側の環境確認が必要です。
- スマートフォン・パソコンの保有状況
- インターネット回線の安定性
- プライバシーが保たれる場所の確保
- アプリのインストール・操作理解
特に高齢患者や初回利用者には、事前のテスト通話やマニュアル提供が推奨されます。
注意点4:トラブル時の対応フロー
通信障害、機器トラブル、緊急事態発生時の対応フローを事前に準備することが重要です。
- 通信トラブル時の電話切り替え手順
- 患者の容態急変時の救急連絡体制
- システム障害時のベンダーサポート連絡先
- 対面診療への切り替え判断基準
オンライン診療と医療DXの連携
オンライン診療は、単独で導入するよりも、他の医療DX要素と組み合わせることで相乗効果が生まれます。
電子処方箋との連携
電子処方箋を導入していれば、オンライン診療後の処方が患者の任意の薬局に送信され、患者は自宅から薬局を選択できます。2026年度改定の「遠隔電子処方箋活用加算(10点)」は、この連携を評価する加算です。
電子カルテ情報共有サービスとの連携
電子カルテ情報共有サービス(CLINS)に接続していれば、オンライン診療時に他院の診療情報を参照できます。患者の過去の診療歴や服薬情報を踏まえた、より質の高い診療が可能となります。
マイナ保険証との連携
マイナ保険証利用率30%以上の要件は、電子的診療情報連携体制整備加算の施設基準ともなっています。オンライン診療でもマイナ保険証利用率の向上施策が、診療報酬上のメリットにつながります。
医療DX全体の中での位置づけ
オンライン診療は、医療DXの重要な構成要素の一つです。医療DXの全体像と段階的な取り組み方については、医療DXとは?個人クリニックが今知るべき基礎知識と実践ロードマップの記事をご参照ください。
よくある質問
Q. オンライン診療は初診でも実施できますか?
A. 一定の条件下で実施可能です。厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」では、初診のオンライン診療について、患者の既往歴やアレルギー歴、現在の服薬状況等を把握できる場合、または「かかりつけの医師」が行う場合などの要件が定められています。ただし、身体所見が診療判断に必要な場合は対面診療が優先されます。詳細な要件は厚生労働省の指針をご確認ください。
Q. オンライン診療の実施に医師の研修は必要ですか?
A. 必要です。厚生労働省の指針では、オンライン診療を実施する医師は、所定の研修を受講することが求められています。研修はe-ラーニングで受講可能で、厚生労働省が指定する研修機関で提供されています。研修修了証は施設基準の届出時に必要な書類の一部となります。
Q. オンライン診療の保険適用範囲はどこまでですか?
A. 情報通信機器を用いた初診・再診、各種医学管理料、在宅医療関連の一部が対象となります。点数は対面診療よりも低く設定されていますが、2022年度改定以降、段階的に拡大されています。自由診療(美容、AGA、ED治療等)は保険適用外のため、別の料金設定となります。
Q. オンライン診療システムの選定で最も重要な基準は何ですか?
A. 以下の4点が重要と考えられます。(1)医療情報システムの安全管理ガイドライン準拠、(2)自院の電子カルテとの連携性、(3)患者層に適した操作性(LINE活用など)、(4)費用と運用のバランス。特に(1)のセキュリティは、汎用ビデオ会議ツールでは不十分な場合があるため、医療機関向けの専用システムを選定することが推奨されます。
Q. D to P with Nは、訪問看護ステーションと連携していないと実施できませんか?
A. はい、訪問看護ステーションとの連携が前提となります。訪問看護遠隔診療補助料は訪問看護ステーション側で算定されるため、クリニック側は主治医として指示を出す立場です。この形態を活用する場合は、地域の訪問看護ステーションとの連携関係を構築することが前提となります。
Q. オンライン診療の診療報酬は対面診療より低いのですか?
A. 一般的に対面診療より低く設定されています。ただし、2026年度改定では遠隔電子処方箋活用加算(10点)、訪問看護との連携での加算等が新設されており、連携形態や追加サービスにより収益機会は広がっています。単純な点数比較だけでなく、患者の利便性向上による患者満足度・継続率への影響も考慮することが重要です。
まとめ:2026年度改定がオンライン診療の転換点
2026年度診療報酬改定は、オンライン診療にとって重要な転換点となっています。電子処方箋との連携評価、看護師同席型(D to P with N)の評価拡充、医師連携型(D to P with D)の整理など、オンライン診療の活用領域が大きく広がりました。
個人クリニックが押さえるべきポイント
- 現状把握:自院の患者層・診療科でオンライン診療が有効か判断
- 段階的導入:まずは慢性疾患の再診など、導入しやすい領域から開始
- システム選定:電子カルテ連携・セキュリティ準拠を重視
- 加算取得:2026年度改定の新加算を確認し、要件整備を計画的に進める
- 医療DX全体での位置づけ:電子処方箋、電子カルテ情報共有サービスとの連携で相乗効果
オンライン診療の導入は、単なる診療手段の追加ではなく、クリニック経営全体のデジタル化戦略の一環として位置づけることが、成功の鍵と考えられます。自院の状況に合わせた段階的な取り組みが、現実的なアプローチと言えるでしょう。
本記事の情報源
- 厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」(参照日:2026年4月24日)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html - 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版」
- 中央社会保険医療協議会「個別改定項目について」(令和8年2月13日答申)
- エムスリーデジカル「【2026年診療報酬改定】新設「電子的診療情報連携体制整備加算」とは?」(参照日:2026年4月24日)
https://digikar.m3.com/articles/medical-dx/article84 - CBパートナーズ「令和8年度(2026年)診療報酬改定が答申:AI・ICT活用とオンライン診療拡大編」(参照日:2026年4月24日)
https://www.cb-p.co.jp/column/24945/ - ユヤマ公式コラム「【2026年答申】令和8年度診療報酬改定の要点と対策を開業医向けに徹底解説」(参照日:2026年4月24日)
https://www.yuyama.co.jp/column/medicalrecord/revision-of-medical-fees-2026-2/ - メディヴァ「令和8年度(2026年度)診療報酬改定④|外来医療の機能分化と医療DXの次のフェーズ」(参照日:2026年4月24日)
https://mediva.co.jp/report/revision/19207/ - 辻本公認会計士事務所「【令和8年度診療報酬改定】D to P with N・D to P with Dの見直しを徹底解説」(参照日:2026年4月24日)
最終更新日:2026年4月24日
執筆時点の情報について:本記事の情報は2026年4月24日時点のものです。制度・算定要件・システム情報等は変更される可能性があります。最新情報は厚生労働省、中央社会保険医療協議会、各システム提供ベンダーの公式発表をご確認ください。
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